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ルイヴィトンタイガトートバッグ編集

 ギュツラフの祈りが終わり、音吉が案じていたように、和訳の聖書が読み上げられた。まだ印刷された聖書は、シンガポールから届いてはいない。ギュツラフは自分のノートをひらいて読んだ。 「アノヒトワ ワシノツミユヱ ミガハリニタツ。ワシドモバカリワナイ タダシミナセカイユヱ。(彼は、わたしたちの罪のための、あがないの供え物である。ただ、わたしたちの罪のためばかりではなく、全世界の罪のためである。ヨハネ第一の手紙二章二節)」  読み終わったギュツラフは満面に笑みを湛《たた》えて、七人の顔を順々に見た。 「きょうは、わたしたいへんうれしいです。さいわいです。七人の日本人とおまいりをすること、思いませんでした。このうれしいきもち、わかりますか」  ギュツラフにとって、今日の日は確かに想像もしないことだった。七人もの日本人の前に、自分の訳した聖書を読む日が、これほど早く来ようとは、夢にも思わぬことであった。ギュツラフは、神の深い恵みを感じていた。 「にんげん、罪あります。誰も。人をにくみました。うらみました。これ罪です。そしりました。心の中に。わたしたちの心、毎日毎日、罪を持ちます。罪、たくさんになります。罪ない日、ありません。この罪持って、にんげん死にます。それゆえ、ゲヘナ(地獄)に行きます」  熊太郎は指で両耳をふさいでいた。しかし庄蔵も、寿三郎も、そして一番年少の力松も、ギュツラフの顔をしっかりと見て、話も聞いていた。音吉と久吉は、その四人の様子をそっとうかがっていた。 「……罪の人、ほろびます。けれど、罪の人ほろばない道あります。それは、ジーザス・クライストです。この人、わたしたちの身代わりです。わたしたち助かります。ジーザス・クライスト、みんなの罪の身代わりになりましたから、助かります。にんげんは、このことだけ、忘れてはなりません。……あなた罪ありますか」  突然ギュツラフは、熊太郎を指さした。熊太郎は両耳に指を突っこんだままだった。 「あなた、罪ありますか」  ギュツラフは寿三郎を指さした。寿三郎は大きくうなずいて、 「あるとです。船が流されたは大きな罪とです」 「船流された?」  ギュツラフは問い返した。音吉が英語で、漂流のことだと告げた。 「おう、流された。それ、人の罪でありません」 「いや、ミスター・ギュツラフ。日本では、それは大きな罪です」  岩吉が英語で言った。 「どうして? 嵐に遭《あ》った、それ人の罪ですか」
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