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2015-02-07 01:06    louis vuittonウィルシャー
「アッツ島守備部隊は五月十二日以来きはめて困難なる状況下に寡兵よく優勢なる敵に対し血戦継続中のところ、五月二十九日夜敵主力部隊に対し最後の鉄槌を下し、皇軍の真髄を発揮せんと決意し、全力を挙げて壮烈なる攻撃を敢行せり。爾後通信まつたく杜絶、全員玉砕せるものと認む。傷病者にして攻撃に参加しえざるものはこれに先だちことごとく自決せり。わが守備部隊は二千数百名にして部隊長は陸軍大佐山崎保代なり。敵は特種優秀装備の約二万にして五月二十八日までにあたへたる損害六千を下らず」  徹吉は凝然と箸を置いた。かたわらで周二が唾を呑みこむのが聞えた。しかし、このよかれあしかれ日本軍に特有の全員玉砕の報——それはやがては極端にいえば日常茶飯事の報知ともなるのだが——をはじめて耳にして暗然と唇を噛んだこの父子にしても、そのとき藍子が示した反応にはさすがにびっくりした。  藍子はその春に東洋永和女学校——もともとは東洋英和なのだが、戦争勃発と共にその名称も改称された——を卒業し、聖心高等女学院の生徒になっていた。彼女はひときわ身長を増し、乳臭さの残った女学生の幼さから、ほっそりとしすぎてはいるものの或るそこはかとない成熟を予感せしめ、一人の女に近づいてきた徴を示していた。もっとも彼女の顔はこのところ目立って痩せ、目の下に憔悴したような隈ができていることもままあった。  そのとき、藍子はだしぬけに嗚咽を洩らしはじめた。うつむいて、肩をふるわせて嗚咽を洩らし、ついで低く、だが堪えかねたように激しく、次のようなほとんどヒステリックな叫びを吐きだした。 「悔しい!」  父親と弟とが驚いてそちらを見やると、その涙に濡れた顔は醜く歪み、かつ貧血した病人のように蒼白だった。次の瞬間、彼女はつと席を立ち、逃げるように向うへ、自分の部屋へと走り去った。つまずくようにしてはしたなく、顔を両手で掩いながら……。  藍子の我知らぬ感情の爆発は、もとより理由のあるものであった。ここしばらく、彼女は自分から未来の夫と心に決めた城木達紀の安否を気遣うあまり、夜の眠りも妨げられがちであったのだ。  昨年の暮、城木と思いがけぬ接吻を交わして以来、藍子は至極変り易い、その十九という年齢にうち震える、いわば極端な恍惚から極度の絶望の感情のあいだを、投げやられ投げかえされていたといってよい。最初には我を忘れた喜悦があった。東洋永和女学校の仲間のうちでも崇拝者の多いこの少女が、これほどまでにいきいきとした、きらきらと輝く瞳を有していることは嘗てないと思われた。「アコ、あなたはどうしてそんなに悲しいほど美しい目をしているの?」と、やがて近づく別離のためひときわ感傷的になった級友が言った。「そう? あたしの目は綺麗? 本当にそうなの? よかったわ。本当によかったわ。あなたのことあたしは忘れない」と、藍子は変にはしゃいで、混乱した言葉をややヒステリックに言って、友達の腕を痛いほど握りしめ、それから、ぼんやりと定まらぬ、意識を奪われたような視線を別の方角に据えた。  やがて卒業式が近づいてくる。おびただしいノートへの別れの言葉と署名、それぞれのグループの記念撮影、或いは開戦時までの校長であったミス・ハミルトンの尽きぬ思い出話、——それは果てしなくつづく、せわしい、落着かぬ、ふしぎに悲しく喜ばしい日々であった。だがその中にあって、いつも真先になって何かにつけ皆を煽動する役の楡藍子が、日ましに寡黙となり、引っこみがちになってゆくのは、いぶかしくげせないこととして目に立った。  藍子は、一通だけ城木達紀の手紙を受取っていた。それは城木がトラック島の基地から出したもので——藍子自身にはそんなことはわからなかったが——一月の末に藍子の手元にとどいた。非常に慌しい便りで、二人の将来に関する具体的なことは特に書かれてはいなかったものの、藍子はその杓子定規の文面から、はっきりと自分が愛されていることを理解できたように思った。しかし、いずれまたゆっくり便りする、とその手紙は結んであったが、その後待ち望んでいる便りは一向にとどかなかった。たとえ大きな作戦にしろ今までの例だと三カ月ほどで終る、長くても三、四カ月でいったん内地に帰港する筈だが、呉に入ることが多いから果してそのとき会えるかどうか判らない、だがそろそろ転勤の時期でもある、どういう異動となるかは不明だが、いずれは内地の陸勤めになることもあろう、と別れるとき城木は言ったものであった。——そして時間はのろのろと、はじめはやるせない恍惚のうちに、やがてはいらだたしい不安と空虚さのうちに過ぎていった。一月、二月、そして三月。だが、城木からはなんの音沙汰もなかった。  藍子は毎日の戦況ニュース、新聞の報道に克明に注意を向けるようになっていた。レンネル島沖海戦というような戦果の発表があると、その末尾に、もしや我方の損害空母一隻などと出ているのではないかと、胸を緊めつけられながら、恐る恐る盗み見た。それは神経を極度に疲労させる、痛々しい緊張の連続する日々であった。彼女にははけ口がなかった。今でもさして稀ならず松原の家で会っている母親にも、仲の良い友人にも、城木のことを彼女は一言も打明けていなかった。この少女には、自分の運命は自分で定めるという矜持があった。龍子から伝わる一風変ってかたくなな、藍子の場合には未だ小さく可愛らしい矜持が。  新しい環境の聖心女学院に登校しはじめたころから、彼女の焦心と疑惑は日と共に濃くなっていった。幼時から我儘に気ままに育った藍子は、じっと堪えしのんでただ受動的に待つという状態に慣れていなかった。まして戦局が新聞の解説によるまでもなく「苛烈を極め」決して楽観を許さないことは、彼女の不安をひときわ真剣なものにした。しばらく前から、藍子はしばしば悪夢によって目覚めさせられた。空一面にかぐろい敵機が数限りなく乱舞し、胡麻粒のように爆弾を投下している。下方の海面はひき裂かれ奔流し、そこに瑞鶴とはかくもあろうかと思われる空母が斜めに沈みかかり、火焔と黒煙に包まれ、まさに断末魔の相を呈している……。翌朝、彼女の目の下にははっきりと隈ができた。それゆえ聖心のクラスに於ける彼女の評判は、東洋永和に於けるそれとはまるきり逆のものであった。藍子は、口数の少ない、取っつきにくい、むしろ陰気な少女と化していたからである。  あたかもそのような時期に、「アッツ島玉砕」の発表があったのだ。アッツ島と城木達紀の運命とはもとより無関係であろうが、その凶報は藍子を根底からゆり動かした。先に便りを受取ってからすでに丸四カ月が経過している。何かがある。何かが起ったのだ。なにか不幸な、考えたくない、しかし考えざるを得ない事柄が。それともこれは単におし迫った戦局のせいにすぎないのだろうか?  藍子は不吉な予感に矢も楯も堪らなくなった。しばらくを堪えた。逡巡した。それから遂に決心をした。城木の家を訪ねてみようと思い立ったのである。  楡峻一と城木達紀は親しくつきあっていたものの、両家のあいだに交際があったわけではなかった。従ってその日曜の午後、藍子が世田谷上馬の城木の家を捜したのは、まったく住所ひとつ——それも同じく出征中の兄峻一の部屋にあった手帳から見出したものである——が頼りであった。  その辺りは閑静な、といってさして大きからぬ住宅の続く区域で、藍子は二、三度、人に尋ねたりしたが、当のその家を捜し当てるまでには意外に閑どった。自宅を出るときも何回かためらったため、ようやく木の門柱に目ざす表札を見出したときは、晴れあがっていた初夏の空もいくらかかげりを帯びだしていた。藍子は門前でまた躊躇した。そのとき、彼女の頭上をなにかすばやく過ぎる影があり、見上げると、それは白い腹を反転させて斜めに上空に飛び去ろうとする燕であった。 「ああ、燕がきている」